田上 早百合 (たのうえ さゆり) プロフィール
写真提供:入善町
1953年6月15日、富山県入善町で生まれました。故郷 入善は、北アルプスの大パノラマを背景に、黒部川が作った広大な扇状地にあり、世界的にも稀な海底林を擁する富山湾が望めます。日本でも数少ない湧水群を有し、海洋深層水やお米・お魚のおいしさは格別で、20Kg級のジャンボ西瓜が特産です。この豊かさを育む雄大な地形は、私の誇りであり、心の支えです。
指物師であった祖父の鑿さばきに物作りのおもしろさを感じながら、美術教師の両親、温かい人々や美しい自然に恵まれた中で、育ちました。造形作家 石田歩は、弟です。(『フルサトの夏2012 石田歩の図画工作展 』図録より挨拶文)
※町立の「下山(にざやま)芸術の森」には、水力発電所の建物をそのまま利用した「発電所美術館」があり、現代美術の展示を行なっています。入善町にお越し下さい。
6歳から、書道を始めました。同郷の書家 「創玄書道会」の大平山濤先生に師事し、「毎日展」入選「創玄展」入賞など、「近代詩文書」の作品を主に書きました。一方、専修大学文学部で、「独立書人団」の伊東参州先生・鈴木天城先生・山崎大抱先生のご指導を受け、また書道部に在籍、広く書の表現を知ることができました。
1976年4月、奈良教育大学専攻科(書道専攻)入学後は、書壇に属さず、その後の書歴はありませんが、古都の豊かな文化や美術に触れ、また、多くの出会いに恵まれました。在学中に、美術科の脇田宗孝先生の陶芸の授業を受けたこともその一つで、大学生活7年目は、美術科の研究生となり、書作したものを陶板や器に象嵌した作品を制作、また、黒陶の窯で「水滴」を焼きました。この経験が、今日の陶芸制作の原点となっています。
大阪府立高等学校(書道)非常勤講師、NHK学園(書道講座)添削指導講師などをし、同講座の季刊の機関紙『書道』に、関西の美術館にある書の名品を紹介する「美術館めぐり」を執筆、10年間連載されました。(その1つ)育児をしながらの取材は充分なものではありませんでしたが、勉強の機会を与えられたことは幸運でした。
下の子供が高校生になった2005年~自宅に工房を持つ2013年まで、陶芸家 箱崎竜平先生主宰の「R工房」(奈良市田原)に通い、磁土による焼成・絵付けを学びました。磁硯・水滴・印盒などの「文房具「を中心に、「磁印」、および盤皿などの器に呉須で文字を書いた作品を作りました。
穴窯焼成の作品に割れやひび(漏れ)が生じることがあり、また水滴の口などの欠け、それらの修復のために、2014年~2020年まで、蒔絵師 杉村聡先生の工房(奈良市西ノ京)に通い、漆による繕い「金継ぎ」を学びました。この頃から、「拭き漆」を刻字作品に施し、印はアクリル絵の具ではなく「置目」の技法で赤漆を用いるようになりました。
書壇に属することなく現代書の研鑽を積む書作家集団「墨翔」から一緒に活動しよう、とお誘いを受け、2015年~「墨翔の仲間」の一人として参加しました。尊敬する大先輩の方々と共に活動できることをとても嬉しく思いました。「墨翔展」はすでに32回を数え、展覧会の名称は、この年から 「墨翔とその仲間展」となりました。毎年5月開催のこのグループ展は、私が一番大事にしている発表の場です。
2023年から、「仲間」も墨翔のメンバーとなり、名称が「グループ墨翔」となりました。
1993年より、学校法人奈良学園中学校(書写)高等学校(芸術科書道)非常勤講師、奈良女子大学書道部講師をしています。
<芸術活動>
自宅には、小さな書斎「若草山陰居」と、電気窯のある「野の百合工房」があります。
書斎は物置のような部屋ですが、若草山の一部が望めます。墨を磨り、筆を執り、豊かな書の資料を眺めたり読書をします。
工房は台所から続く土間です。「文房具」「磁印・陶印」を作り、漆を使った「金継ぎ」「漆繕い」をします。文房具は、水滴や水注・筆置き・ペーパーウエイト・印盒(香合にもなる蓋物)・硯・墨床・筆筒などです。印(篆刻作品)は、石印材に刻すのが一般的ですが、粘土で自由なオブジェを作り、素焼きした後に(書斎で)刻し、施釉して電気窯で焼成して仕上げる、その全ての工程を楽しんでいます。仲間と共に行なう穴窯・トレインキルンなどの薪窯では、主に「花器」を作っています。近年、茶道具にも挑戦中です。
これらの作品を発表する機会が、年数回あります。書作の傍らに、自作の花器に野の花を飾って壁面を構成する展示スタイルが多くなりました。また、本やチラシの題字、商標、刻字による看板や表札なども、依頼に応じて制作することがあります。
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<書の社会活動>
2006年、奈良県主催の「奈良の文房三宝展」の体験コーナーのお手伝いをしたことが契機となり、NPO法人「奈良21世紀フォーラム http://nara21cf.org/blog/ 」から、2010年に開催される「平城遷都1300年祭」の書の記念行事への協力依頼を受けました。遷都祭プレイベントとして、翌年から「なら工藝館」の「阿字万字(あぜまめ)ギャラリー」を会場に、奈良県特産の筆・墨の展示と、書展「書くことは楽しい in 奈良」を行ないました。会場が広いので、奈良女子大学書道部の他に、東大寺学園・西大和学園の書道部とそのOBにも呼びかけ、2009年まで3回開催しました。
2010年には、全国の高校生・大学生対象の「公募展(書くことは楽しい in 奈良)」(奈良県文化会館)、「席書会」(東大寺大仏殿東回廊)、「講演会」(奈良県文化会館小ホール)を開催しました。この行事の企画に参画し、「公募展」の審査基準を<既成の技術重視からメッセージ性重視>の観点を主張して、作成しました。翌年から、「公募展」「席書会」の会場が東大寺大仏殿西回廊となり、「大仏書道大会 ―書くことは楽しい in 奈良― 」という名称となりました。
毎年、審査および運営に携わっています。若い頃から書と共にあった私に、恩返しのボランティアが与えられたのでしょう。奈良の地にあって、この特色ある催しを大切に広めていきたいと思っています
<陶芸の社会活動>
2005年8月、アート系NPO法人 「Arts Planet Plan from IGA (伊賀市青山)」主催の造形ワークショップ「穴窯づくりに挑戦」に参加し、多くの方々と薪窯を造り、作陶会に続く年末の窯焚きにも参加しました。これを機に、翌年、法人会員となり、陶芸自主活動グループ「粘土カフェ」発足と同時に主担当を仰せつかりました。燃料となる薪(赤松)を購入せず、森林を保全するための間伐材を再活用することを趣旨として、赤松の調達・薪割りや窯の修繕など、仲間と共に汗を流し知恵を出し合いながらの活動を展開しました。2021年1月、10回目となる「穴窯焼成」を実施しました。
伊賀の地ならではの有意義な活動と自負していましたが、2021年5月、事務局員の枯渇と高齢化のため、法人は解散しました。これに伴い、「粘土カフェ」の約15年間の活動が終了しました。 ※「粘土カフェ」のこと
この法人の事務局会員として、主催する「実技講習会」、地元と協賛で行なってきた「風と土のふれあい芸術祭 in 伊賀」、「研修旅行」などの活動を通して、様々な体験と学びの機会に恵まれました。書以外のジャンルのアーチストの方々との出会いがあり、視野が広がりました。法人活動で得た仲間との交流は続いています。