第38回「墨翔展」
5月3日(水・祝)~5日(金・祝)、「墨翔展」を開催しました。「墨翔」は書壇に属さない書作家集団です。私はこの仲間との交流を励みに制作し、このグループ展は最も大事にしている発表の場です。
今年から、「墨翔の仲間」として参加していたメンバー(私も)全員、「墨翔」の同人となりました。従って、グループ展の名称が「墨翔とその仲間展」から「墨翔展」となりました。総勢12名で行ないました。
会場は、「奈良県文化会館」が改築休館中のため、初めて「八尾市文化会館プリズムホール」3階にある展示室をお借りしました。プリズムホールは近鉄大阪線「近鉄八尾」駅から200m(徒歩5分)の所にあり、中央が吹き抜けになった地下2階5階建て、大きなホールなどを備えた立派な施設でした。
写真は、会場風景の一部です。大阪で開催したため、初日には会場を埋め尽くす来場者の方々で賑わいましたが、その時の様子を写真に撮る余裕はありませんでした。写真2枚目は、初日を避けて来てくださった仲間たちと歓談しているところです。バックは、私の展示コーナーです。
私の担当壁面は8.4mです。その左の壁面は、五節句の一つ「七夕」をテーマにした書と陶作品、右の壁面は、刻字作品「ゆめ倶楽部」を中心に展示しました。※プロフィール・ごあいさつ
左の軸装作品3点は、表具にも作品の意図を反映できるよう「吉川春陽堂」さんのご主人と相談して、裂(きれ)や形式を決めました。一番左『万葉集』を万葉仮名と現代文で書いた作品は、彦星が織姫に逢うために舟で天の川を渡るという内容、夜空を思わせる黒い裂は珍しいのだそうです。「逢」は、青墨の墨色に合わせて紺2色の裂を用い、茶掛け風の仕立てです。「七夕や 心もとない 朝くもり」は、女流俳人の草創期に活躍した高橋淡路女(あわじじょ)の句、朝は曇っているけど晴れるよね⁈ という恋心に想いを寄せて書き、七夕飾りのような文人表装にしました。
5つの額装の作品は「星いっぱい」と題し、篆書体で書いた星達です。マットをそれぞれ五色の短冊の色(紫・白・赤・黄・緑)にしました。中央の竹製「掛け花入れ」も自作です。
中央の刻字作品「ゆめ倶楽部」は幅140m、5つの文字は、筆順が判るように刻しています。板の表面を電動サンダーで整えて「拭き漆」を何回もしたので、木目のきれいな作品となりました。木の持つ力、その魅力を見てもらいたいと思って、この壁面には工芸の作品のみを並べました。
右の「掛け花入れ」は、昨年末にトレインキルンで焼成したものです。ご近所の空き地に群生している野イチゴを生けました。左の「掛け花入れ」2点は、穴窯焼成の作品です。長い方のカーブは窯の中で自然にできました。これらを吊るしている大きめの「スイハツ」は、骨董品屋さんで見つけた古材で、「拭き漆」し、釘を2つ打って再生したものです。拙宅の玄関口にある黒竹を生けました。
机上展示の作品です。こと座・わし座の一等星のVega(織女星)・Altair(牽牛星)は、墨のにじみで表現しました。それぞれの星座を象徴する「糸巻の香合」と「牛の文鎮」を添えました。旧作の「辰星」「星」と刻した磁印も並べました。その右の「竹の花入れ」には、庭に咲いていたフタリシズカと野の花を生けています。これらの陶作品は、七夕に因んで作陶し、3月に信楽の穴窯で焼成したものです。
昨年の墨翔展を見届けるかのように、搬出の2日後に亡くなった河野通一さんの作品8点です。大好きなお酒の詩や日記のような自詠の言葉を、何枚も書かず一気に仕上げておられました。その根底にあるのは、徹底した臨書によって培った線の力です。拓本などの中国古物を収集し愛で、真摯に古典に向き合う姿が、今も目に浮かびます。※プロフィール
墨翔展は38回を数えていますが、当初からのメンバーは3人となりました。写真1枚目は、この先輩の方々の展示コーナーの様子です。写真2~4枚目は濱上哲さんの作品の一部、親友の河野さんを偲んで書いた「雪月花の時 最も君を憶う(おもう)」「般若心経」などです。
下の写真1枚目はお坊さんらしい中西玄匡さんの作品の一部です。「蓮」「雲」がお好きなようです。大きさがわかるように立ちました。写真2・3枚目は合評会中の早崎蘇石さんと作品の一部、反戦を謳った「時代遅れのロックンロールバンド」は、昨年末の紅白歌合戦で印象に残った歌詞ですね。
私と同じくらいの歳のメンバーは、私を入れて4名です。上の段は、遊び心があり、様々な工夫が楽しい小川奇石さんの作品の一部です。
下の段の1・2枚目は東ティモールの独立運動以前からその活動にかかわって平和活動を続けておられる文珠幹夫さんのプロフィールと作品の一部です。専門が物理学のため科学者の言葉の引用もあり、解説付きで見るのがお勧めです。3・4枚目は学生時代からの親友 倉下真澄さんの作品の一部です。彼女は絵も書も得意で、どの作品にもその言葉のメッセージに相応しい絵が主張することなく、書を引き立てるように添えられています。
墨翔のお若い方々(20代~30代後半)は、就職・結婚・出産など生活の変化で久しぶりの参加の方や参加されていない方もあり、今回は4名でした。写真1・2・3枚目の3人は、元今宮高校「書画部」の方々です。あまり時間を掛けず自在な筆致で次々と、絵や文字、自分の言葉を綴るスタイルです。写真4枚目は、小さなお子さんを育てながら高校の書道教師をされている方の「駆けまわる」、よく制作時間があるな、と感心します。怠け者の私は、個性豊かな墨翔の仲間の方々から、たくさんの刺激をもらっています。